logo
Published on

役割が枠を定め、責任が重さを与え、力が手段を与える。「実質」ではなく「明確」に

Authors

私は現職で、いわゆる「テックリード的」な役割を担っています。

周囲はそう扱ってくれることが多いですし、実際に経営側の方々からは「テックリードだ」と言われています。ただしこれは社内で明確に示されているわけではありません。

biz 側の人は開発サイドの責任者が誰であるか把握していない人が多いでしょうし、こと開発側に至っても状況や都合次第で認知の程度も変わります。

実質はあるが、明示がない。個人的にはこのズレが日々の摩擦を生んでいるように感じます。


実質とは「やっていること」、明示とは「任されていること」です。前者は見える人にしか届きませんが、後者は見えない人にも届きます。

比較的小さな取り組みであれば「実質」でも問題ないのかもしれませんが、それが組織・プロダクトに大きく関わるような場合には問題になり得ます。

小さな取り組みであれば決定の差し戻しなどによる対処も簡単なケースが多いでしょうが、大きな課題では動き始めると戻るのも簡単ではない道になる場合も少なくありません。

だからこそ、役割は明確に示し、それに伴う責任と力を与えるべきです。逃げ道を塞ぎ、自分自身の行動・考えに責任を持たせ、やるべきことをやれるようにすることで、「立場が人を作る」のだと思います。

他のメンバーに対しても、「やりたいのであれば、ここまでやる必要がある」と示し、道を明確にすることももまた、「立場が人を作る」に繋がると考えています。


創業初期は、落ちているボールを拾い続けることでしか進めません。私もそうしてきました。

その結果、技術的な意思決定・方向性の判断・新規技術の導入など推進してきましたし、今後も引き続きそこは期待されている部分でもあります。

ただ組織が立ち上がる段に入ると、「実質だけ」では限界が来ます。組織もプロダクトも成長段階になれば様々な課題が頻出します。

そうした課題の対処法や方向性を束ね、より効率的にプロダクトの成長にフォーカスさせるためにも、誰が何に責任を負っているのかを明確にすべきです。

フラットな組織と役割の明確化は矛盾しません。むしろ逆で、水平であるほど、「誰が決めるか」「裁量の範囲はどこか」が透明でなければ、チームは止まります。

役割が見えない状態は、人を迷わせ、動きを鈍らせ、時に過剰にさせます。

新規メンバーにとっても、明示は救いになります。誰に何を聞けばいいか、何をすべきでないかが最初から分かれば、余計な戸惑いは減り、求められる動きにフォーカスできる。

判断の道筋が見えることは、安心して前に進むための前提条件です。

ただ忘れてはいけないのは、明確化は権力の誇示ではないということ。

役割を明確化することで責任の所在と権限の範囲を誰もが確認できるようにして、意思決定の通り道を整備したいだけなのです。役割の明確化は組織を前に押すための一種のブースターです。

そして、役割を明確化し責任を与えるなら、相応の力(裁量・決定権)は渡すべきです。

役割とは、その範囲において起きることの責任と力の枠組みです。

責任と力は2つで1つで、どちらかだけというのは組織においては存在しません。自由にだけやりたい(= 力だけがほしい)のであれば自分一人でやればいい。


結局のところ、言いたいことは単純です。

組織はやってほしいことだけやらせるのではなく、安心してやり抜くための土壌を整えること。

任される側は与えられる責任と力を正しく理解し、最後までやり抜くこと。

組織と個人ががっちりとスクラムを組んで取り組める環境を作る1つの方法として、役割の明確化はやっていくべき取り組みだと思います。